父の同級生

先日、私が六代目となる『天草下田温泉 旅館 伊賀屋』に
ご家族連れのお客様がいらっしゃった。
「ご主人はいらっしゃいますか」と聞かれているという知らせを受け、
さっそく私はお部屋に伺った。
私と同年代であろう男性は、このような話をされた。

「この度は、急に一人増えてしまって申し訳ありません。
実は昨夜、私の父が、天草では、どこの旅館に泊まるのか、と聞くので、
下田温泉の伊賀屋旅館だよ、と答えたら、懐かしいなあ、
そこの旅館は、天草農業高校時代の同級生がやっているとこだ。
三十年ほど前に還暦祝いの同窓会をやった。
俺も連れて行ってくれないか。
と言うので急でご迷惑か、とも思いましたが連れてきたのです。
今、隣の部屋にいるので、会ってくれませんか」

その方は、隣の客室で、座布団に正座をして、
テレビの相撲中継をご覧になっていた。
私は、大相撲九州場所をこたつに正座して楽しむ父を思い出していた。

「主人の山崎です。父は、平成十年に亡くなりました」と言うと、
「そうですかあ。同窓会のときは、まだ元気だったけどなあ。
あのときは、たくさん飲んだ。いい思い出ですよ」

「ええ。私もあの日のことは、よく覚えてます。
私の父と、寮で一緒だった人たちは、
夜も寝ずに、24時間飲み続けでしたからねえ。
忘れるはずもありません。
化学製品のアルコールではなくて、本当の焼酎を飲めるのがうれしい、
と皆さん言われてました。ごはんも毎日腹いっぱい食べられて、
日本にこんないい時代が来るとは、夢んごたる、
と本当、皆さん喜んでいらっしゃいましたねえ」

翌朝、私は、
ワンボックスタイプの車に乗り込まれるご家族を見送った。
「必ず、また来ます」と、父の同級生が笑いながら手を振り、
大きな声で言われた。

一瞬、私の目には、その方が父に見えた。
私に「がんばれ!」と言う父の顔に見えたのだ。
懐かしくて懐かしくて、もう一度、父に会いたい、と思った。

 

 

 

 

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