蔵々窯 その1.

先月、熊本伝統工芸館で、「天草陶磁器展」が開催された。
春の暖かい風が吹く中、散歩がてらに行ってみた。盛況だった。

お目当ては、蔵々窯のバケツだった。
やはり生で見ると、
ニューヨークの前衛アーティストが造ったような雰囲気があり、
とてもこれが陶器だとは思えない。
バケツの赤も、懐かしいような、新しいような、不思議な感じである。

実は、私は、五足のくつをつくっている最中に、
料理の器を、この蔵々窯が一番イメージが合うと思い、
電話を掛けたことがあった。
しかし、話は進まず、それっきりだった。
そんなことを懐かしく思っていると、
会場の隅で、紙コップのコーヒーを入れてくれた人がいた。
「たしか、五足のくつの方ですか。一度、電話をいただきましたよね」
「覚えてますか。あの時は失礼しました」
会話は進まなかったが、最近の作品に私は見惚れていた。

20数年前、私が五足のくつの敷地に抱いていたイメージは、
ギリシャや古代ローマの円形劇場の風景であった。
ゴツゴツした天草陶石層の乾燥した印象と
青い海と空がそのように思わせたのかもしれない。
そのイメージは、17年前に見た蔵々窯の作品にも通じるものがあったのだ。
なぜか、それっきりになってしまったが、
今回、最近の作品を見て、その進化は、
どことなく五足のくつと似た時の歩みのような気がした。
鮮やかな原色や、エイジングされた雰囲気に
同じ方向を向いていると感じた。

なかなかよかった。
気分を良くして、熊本城を見ながら散歩をし、
城彩苑で、クマハイを飲んだ。球磨焼酎のソーダ割りである。
その日は、新市街の角打ちで楽しんだ。
なぜか散歩中から店のなかでも、サングラスをかけていた。
翌日、それがすでに酔っていた証拠だと気づくとおもしろかった。

翌週、行きつけの上通の堤酒店へ行こうと歩いていると、
なんと蔵々窯の人に会った。
「飲みに行きませんか」
と誘われたので、一緒に堤酒店の暖簾をくぐった。
「あれから一週間、天草には帰らず、友達の家に居候しています。
ずっと天草陶磁器展の会場にいました」という。
そういえば、あの日と同じ格好だ、ということに気づいた。

 

 

 

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熊本県・天草市・下田温泉の旅館「五足のくつ」は、九州・熊本の雲仙天草国立公園にある、全室源泉かけ流し天然温泉の露天風呂付き離れの宿です。生ウニや伊勢エビやアワビなど、旬の地魚を使った懐石料理や天草産の天草大王・天草黒牛が人気。白秋らの紀行文「五足の靴」が名前の由来。

 

 

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