増価主義

めっきり天草も秋めいてきた。
朝晩はとても涼しい。

ところで昨年、五足のくつC棟の全客室の床暖房工事を行った。
おかげで、お客様からはとても好評を得ている。
「今年は、ますます快適に過ごせましたよ」
と、常連のお客様に言われると、とても嬉しい。

五足のくつをつくる準備をしていたころに、
箱根富士屋ホテルの山口祐二さんがこんなことを言われていた。

「そろそろ日本の旅館、ホテルもスクラップアンドビルドから脱却して、
増価主義に徹する必要があるのではないか。
オープンしたときが価値の絶頂ではなくて、
オープンして5年経ち、10年経って、だんだんと価値を増していく、
そんな経営が必要になるのではないか。
ヨーロッパの田舎にある小さなホテルたちのように」

五足のくつが開業した頃は、赤土を隠すために草を植えたり、
古木のような樹を選んで植えたりしていた。
古い貫禄のある旅館がひっそりと佇んでいる風情を急いで作ろうとしていたのだろう。
五足のくつのレストラン邪宗門からの景色がグリーン一色になるように
木をいくら植えても、思い通りにはならず、やはり15年の歳月が必要だった。
コレジオの前に植えたクスノキもこの地に根付いて堂々と生命力を謳歌している。
五足のくつもこの森のように、ますますその魅力を増していければと思う。

 

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↑五足のくつ コレジオ 15年経って森になった

 

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↑レストラン邪宗門からの風景

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↑苔むした小道

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↑苔が生えた石を見ると、それだけでとてもうれしい

 
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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない ~その133.

このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない

その133.天草とステンドグラス

 

畳の上に跪き、祈りを捧げる漁師の姿を写した写真が私の机の前にある。

戦前だろうか。
完成して間もない頃の崎津教会である。
この写真は、夜に写したモノクロなので、
ステンドグラスの鮮やかな色は伝わってはこないが、
戦前戦中戦後の日本の暗い時代に、
天草のこの地、崎津と大江には、
綺麗な色のステンドグラスが日常に溶け込んでいたことは、
私にとって誇りであるし、愉快でもある。

だから、五足のくつを造るとき、
天草の素晴らしい歴史と風土を表現するためにステンドグラスは、
不可欠であった。

だが、それを実現するためには、国内での調達では予算が合わない。
二田口君は、インドネシアに着いた夜、
既にいくつかのステンドグラスに使うデザインを用意しておいてくれた。

「日本でもなく、ヨーロッパでもなく、長崎でもなく、
やっぱりこれは、天草だ、と思えるようなデザイン」

私のリクエストの答えてくれた
それらは私の気に入るデザインばかりであった。

 

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↑これがその写真です

 

 

 

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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その132.

このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない

その132.B棟の石塀

 

二田口君のデザインの師匠の長尾さんの手配のお蔭で、
現地の業者とは、名刺交換の時点で意気投合した。

「このオーナーは、妥協したくなくて
遥々インドネシアまでやってきたんだから長丁場になるかもしれないよ。
だから、車も丈夫なヤツを用意しといてね」
と、二田口君が話すと、まだ若そうな現地のドライバーが、
「マカセテクダサイ」
と、片言の日本語で応じた。

「社長、まずB棟の石塀を構築するための石探しから始めましょう」
と言う二田口君の指図で、
車は、いくつかの現地のホテルや民家、古い集落などを訪ね歩くことから始めた。
毎朝、早い朝食を済ませた後、夜遅くまで、
それぞれのイメージや考えを車中で話したり、
現地の石の原産地や工場を廻ったりした。

天草には、古くから集落や家の周りを石垣で囲む習慣がある。
その石垣の石は、やはり古い感じのものでなければならなかった。

ある古いホテルの石垣にイメージ通りのものをみつけた。
「社長、でもこれは最初真っ白で、だんだんとこの風情になるんですよ」
と二田口君が教えてくれた。
「増価主義を貫こうじゃないか。
10年経てば、こんな風情になるのであれば、私は待つよ。
とにかく、私にとっての本物の天草を、私は造りたいんだ」

ようやくその石に決定したときは、木籔さんも二田口君も私も、
やっと一仕事終えた、という達成感でいっぱいだったことを
今でも、B棟の石塀を眺めると思い出す。

 

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↑ヴィラBは、このインドネシアで見つけてきた
石塀で仕切られている。

 

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↑五足のくつは今年の7月でオープンして14年。
時間しか色づけることができない、この色。
私の思い描いた色になっている。
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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その131.

このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない

 その131.初めてのアジア旅行

 

意外に思われるのだが、この時に行ったインドネシアが
私にとって初めてのアジア旅行だった。

いつか詳しく書く機会があると思うが、
「アジアのなかの天草」というフレーズは、
私が天草を地理的、歴史的、風土的に
深めていく作業を始めたときに浮かんできた。

つまり、他のどこにもない天草を創造するための、
私にとってのアファメーションだったのである。

ところが、五足のくつがオープンした後、
五足のくつは、さまざまなところで、
アジア風な旅館のように言われ、意外だった。
また、それ以上におかしなことに、日本のあちこちに、
アジア風な旅館がオープンしたりもした。
けったいな現象だと思ったが、
世の中とは、こんなものだろう、ということにして、
私は、気にも留めなかった。

当時の私は、15年後に、このような文章を書くことなど思いもせず、
木籔さんや、二田口君と、エコノミー席で楽しくワイワイやっていた。

 

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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その130.

このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない

 その130.『VE案 Ⅷ』

 

「では、今回のN建設さんからのVE案は、
本日の会議出席者全員の承諾の許に一旦破棄ということで
皆さん、よろしいでしょうか」
二田口君の呼びかけに全員が「はい」と返事をした。

そして、硯川さんが発言した。
「後ほど、N社長とも詰めて話したい、と思いますが、
とにかく当初の設計図通りに仕上げたい、
という皆さんの気持ちが私には、痛いほどよくわかりました。
木籔さんが言われたように、
当初、社長がイメージしたものと違う旅館が出来上がっても
経営的にうまくいくはずがない、
という意見には説得力がありました。
これまで以上に頑張らなきゃな、と思っているところです」

N社長も、
「これから会社に戻りまして、硯川所長とともに、
高等数学を駆使してもう一度、
山﨑社長の夢の実現のために努力いたします」
と、はにかみながら言われた。

「じゃ、我々もさっそくインドネシアへ、来週にも行きましょう。
こうやって素晴らしい旅館が出来上がっていくんです!!」
木籔さんは、笑わず、まじめな表情で、二田口君と私に呼びかけた。

 

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↑私の考える旅館を造るべく、
たくさんの方々が知恵と労力を使ってくださった。
この文章を書きながら感謝の気持ちがこみ上げて来た

 
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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その129.

このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない

 その129.VE案Ⅶ

 

二田口君は、目を輝かせながら発言した。

「私のデザインの師匠の長尾というのがおりまして、
インドネシアの業界に強い伝手をもっております。
実は、すでに現地の業者とは
私も何度か仕事をしたことがありますので、
今回のプロジェクトで
部材を現地調達した場合の試算を簡単にですが、
すでに行っております。
N建設さんの見積のなかでは、
ステンドグラスなどが莫大な金額になっておりましたが、
これなどもインドネシアのある島に
優れた技術集団がいるという情報がありましたので、
長尾に問い合わせましたところ、
数分の一の金額でできるだろう、ということでした。
ただ、アジアからの輸入ということになりますと、
オーナーの意向で、
嫌と言う方もけっこういらっしゃるものですから、
今まで言うのを控えさせていただいておりました」
堂々とした発言だった。

私は、笑いながら言った。
「五足のくつにとってとても大事なフレーズがあります。
『アジアのなかの天草』です。
喜んでインドネシアの職人さんたちの協力を得たいと
私は、考えています」

会場には、納得の明るい雰囲気がだんだんと満ちてきていた。

 

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↑ヴィラAでは千鳥と波をモチーフにしたステンドグラス

 

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↑ヴィラBでは花をモチーフにしたステンドグラスを配置している

 

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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その128.

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 その128.VE案Ⅵ

「山﨑社長は、どう思われますか」

会場へ戻ると、硯川さんが私に訊ねた。

「五足のくつの設計で、重要な個所のひとつとして、
木や石などが無垢の部材であるということがあります。
それが、それのようなもの、
つまり、集積材やアルミ、モルタルなどに変われば、
魅力のない旅館になってしまうでしょう。
説得力が全く欠けてしまいます。
ですから、今日のVE案は受け入れることはできません。
そこで、提案ですが、海外から無垢の部材を輸入すれば、
コストは大幅に下げられるのではないでしょうか」

その時、デザイナーの二田口君が目を輝かせて発言し始めた。

 

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↑客室の床は無垢の木を使っている

 

 

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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その127.

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 その127.VE案Ⅴ

 

会場は、シーンとしていた。

私は、会場を後に手洗いへ向かった。
手洗いを済ませると、母がいた。
「木籔さんは、なんば怒っとらっと?」
「N社長が予算の合わんけん、
設計変更してくれって頼みに来とらすと」
「せっかく力になってもろうてここまできたっだけん、
頭さげらす人の言わることは、聞いてやらんばでけんばい」

私は、幼い頃、
こんな話を母によく聞かされていたことを思い出していた。

母が下田に嫁いできた頃、近所の新しく建った家の前で、
寂しそうにその家を眺めていた人がいたそうだ。
聞くと、その人は大工で、この家を請け負ったそうだが
どうしても当初約束した金額では建てられそうもない、
と施主に言うと、そんなことは許さない。
最初、約束した通りの金額で、約束した通りに造れ、
といって施主は、聞かなかったそうだ。
そして、その通りに建てたら、
案の定、その大工さんは、破産したというのだ。

「この家さえ造らなければ」
と繰り返しその人は言っていたという。

そして、後日談だが、
その家に住む人たちも破産してとうとういなくなった。
だから、家を造るときは、
大工さんに損をさせてはダメだ、と言う話である。

「今、どうすべきか」
会場では、皆、それぞれの立場での発言を
それぞれの仕事として行っていた。

 

 

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↑五足のくつのレセプション棟「ヴィラ コレジオ」の屋根。この反り屋根は私が最もこだわったうちのひとつである
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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その126.

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その126.VE案Ⅳ

 

木籔さんは、続けた。

「今回のこの提案では、
石や木などの部材がすべて変更されています。
天然石は、モルタルに。木は、アルミに。
いいですか、皆さん、
この計画の最初の会議で社長が言われたことは、
天然の素材を使いたい、ということでしたよね。

たとえば、窓枠でも、
天草の素朴さを表現するためにはアルミサッシではなくて、
昔の天草の民家では当たり前だった木枠にしてください、とか、
玄関の土間も、天草では当たり前だった
石工の造った土間の踏み心地を味わって頂きたい、
ということだったじゃないですか。

この事業は、山﨑社長の事業です。
山﨑社長の造りたいものを造るために
我々は、いるんじゃないですか」

N社長は、ずっと俯いたまま頷いていた。
私は、気の毒だった。

「その思いで、努力を重ねてきたのですが、
どうしても無理な面がありまして」
顔を紅潮させながら,N社長が力弱く弁解した。

 

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↑五足のくつは山の中腹にあり、勾配がある。
天草の自然を感じていただきたく、
階段もまた自然石で造った

 

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↑16世紀に天草にあった宣教師を要請する学校
「コレジオ」から名付けたレセプション棟、コレジオも
16世紀を再現するため窓は木枠、床も木材だ。
そして周囲には天然石を置いた

 

 

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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その125.

このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その125.

 『VE案 Ⅲ』

 

伊賀屋の宴会場で、N建設からのVE案の提出がなされることとなった。
まず、N建設のN社長からの挨拶から始まった。
「山﨑社長の夢の実現のために
私ども会社を挙げて全力で頑張っているものですが、
どうしても予算に合わないところがございまして、
本日の場を設けていただきましたこと、心よりお礼申し上げます。
来年の7月21日がオープンということで、工期も余裕がありません。
どうかご理解を頂きたいと存じます。
では、さっそく担当から説明申し上げます」

そこで、VE案の提案書が配られた。
出席者は、他には、硯川設計事務所長、二田口君、木籔さん、
私である。
全員無言で、ページをめくった。

「担当の者です。ご説明いたします」
ここで、木籔さんが叫ぶような大声で、それ以上の説明は不要だと制した。
「こんな内容を受け入れることができるわけがないじゃないか!!」
と言って、提案書を床に投げつけた。

会場は、シーンとなった。

 

 

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